窓の外の景色が次々に後ろに過ぎてゆく。
空は少しかすみがかった青空だ。初夏の緑は目にまぶしく、斜面に立つ住宅街、重機の並ぶ工場群、一面に広がる田んぼ、その向こうには山々が連なり、時々つつじの赤色が目にとまっては、消える。

思いつきの突然の旅だ。隣に座っている彼は最初はゲームをしていたが、そのうち飽きたらしく眠ってしまった。自分も寝ようかな、と考えるけれど、なんとなくせっかくの旅の時間がもったいないような気がして、時々あくびをかみころしながら、起きている。今までいろいろな場所に行ったけれど、実は余暇の時間として出かけたことはあまりない、それこそゴンの故郷のクジラ島ぐらいだ。
1日だけぽっかり空いた仕事休みで、「そういえばお前の誕生日祝ってないな」というキルアのひと言で、決まった旅だ。目的地だけ有名な観光地に決めて、どこに行くのか何を見るかも全然決めずに、列車に乗った。
携帯電話を開けばおすすめスポットなんてすぐに分かるだろうけれど、なんとなく面倒くさくてゴンは窓枠に頬杖をついたままでいる。

たくさんの景色を通り過ぎてゆく。
ふと、通過駅のホームに、一組のカップルが立っているのが見えた。それは一瞬だったけれど、ゴンの動体視力ではよく見えた。
大人になりそうで、でもなりきれてない、子供くらいの年齢で。
髪を短く刈った彼はリュックサックを、おさげ髪の彼女はショルダーバッグを身につけて、しっかりと手をつないで立っていた。
彼らはとても嬉しそうに笑いながら、ホームの日なたに照らされていた。

ああ、いいなあ、と思ったのだ。
どうしてかは分からない。うらやましい、とは少し違う。
ただ、なんとなく、彼らの行く旅路を思って、いいなあ、という感情が胸に湧いた。でもそれも一瞬で、彼らの映像は次々と流れる景色に流されてゆく。
山間を流れる清流、川べりで遊ぶ子供たち、うっそうとしたスギ林、森の入口にぽつんと置かれた軽自動車。そして緑。
俺たちはどこへ行くのだろう、と考える。
今まで長い旅をしてきて、たくさんの時間を過ごして。
これから、どこへ行くのだろう。

うん、と声がして、隣を向くと、キルアが目を覚ましたようだった。
ねぼけまなこであとどれくらい?と聞くので、わかんない、と答える。わかんない。そっか、とキルアは答える。
なんとなく、手を伸ばしたくなって、キルアの指先に触れた。あいかわらず冷たかった。キルアは少し驚いたようにゴンを見て、そのまま何も言わずに前を向いた。

「早く着くといいね」
「そうだな」

流れる景色に目を戻すと、こらえきれなかったあくびがひとつ出た。



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