修行の休憩時間だった。ずっと部屋の中にいるのが息苦しくなって、外に出た。ホテルの後ろには小高い丘があって、歩いてる途中で競争になって二人でてっぺんまで駆けて行く。4月の下旬、風は心地よくTシャツの間を吹き抜けていく。
緑がまぶしい。

「そーいやさー」
「んー?」

二人同時にゴールして、そのまま大の字に寝転んだ。首筋にあたる芝生がくすぐったい。見上げた空は雲ひとつない快晴で、思わず手を伸ばしてみる。
遠く、遠く。

「お前もうすぐだよな、誕生日」
「あーそーいえば」

最近の生活の端々で思い出すことはあったけれど、今この瞬間にはすっかり頭から抜け落ちていた。だから意図せず気の抜けた返事になってしまって、そんなゴンにキルアは呆れたような声を出す。

「忘れてたのかよ」
「そういうわけじゃないけど。修行中にそんなこと考えないし」
「まーな」

でも、と言いかけて、急におかしくなった。思わず声をたてて笑うと、キルアが変な目でこっちを見てくる。ゴンはそちらを向かないまま首を振る。芝生がかさかさと音をたてる。

「やーキルアも成長したなあって」
「……なんだよ」

くすくす笑っていると、足を蹴られる。蹴り返す。
出会ったばかりのころ、キルアは誕生日を祝うという感覚を持っていなかった。もちろん、世間の常識的にそうするものだという認識はあったのだけれど、気持ちがついていかないというか。誕生日を祝おうとしたら、ぎゅっと眉を寄せて拒否された。そんなんどうでもいいよ、そう言って背中を向けられた。
そのとき、どうしたんだっけ。記憶は残っているけれど、ゴンはわざと思い出すのをやめた。何だかとても恥ずかしいことを叫んでいた。

「なんか欲しいもんある?」
「強さ」
「うん、なんか欲しいもんある?」
「……特にない、かな」
「食いたいもんとか」
「作ってくれるの?」
「ものによる」
「じゃあ思いついたら言うー」
「そーしてくれ」

鳥が高く飛んでいる。
声は風に乗って、空へ空へ、昇っていく。

「なんかさー」
「んー?」
「……やっぱいいや」
「なんだよ、気になるだろーが」
「いや、なんかね」
「だからなんだよ」

ゴンは息を吸い込んだ。きらめく太陽に目を細めた。


「――長く一緒にいすぎて、」


ざあ、と風が鳴った。
ゴンはその先を続けなかったし、キルアも何も言わなかった。ただ二人、風の音を聴き、芝生を背中に感じながら、過ぎてきた時間に思いを馳せた。
ゴンは言う。

「……だから、キルアがいればいいよ」
「……あ、そ」

わあくっさいセリフ、そう笑いながらもキルアのその声は穏やかだった。ゴンは勢いをつけて起き上がる。大きく大きく、伸びをする。横を向くと、まだ寝転がったままのキルアと目が合った。

「帰りも競争ね」
「よっしゃ望むところだ」

笑いあう。
ドン!の声と同時に走り出す。風を追い越す速さで駆ける。誕生日のことはすぐに忘れた。
ああ夏がくるな、と不意に思った。



グリーングリーン/もちろんあの歌のタイトルを拝借いたしましたが、特に歌詞を意識したわけではないです