永遠なんて信じないよ、とキルアは言った。
ゴンは何も言わなかった。ただ黙って彼がその先を続けるのを待った。
静かに響く雨音。部屋の空気はひんやりと冷たい。
窓の下、クッションを抱え込んでうずくまるキルアをゴンは見つめる。
永遠なんて信じない、と、彼は言う。

「だって怖いだろ、そんなの信じてたって。ずっと一緒にいようね、なんて、馬鹿みてえだろ。絶対いつかは別れるに決まってんだろ。そんなの、分かりきったことだろ」

視線を下に向けたまま、キルアは言葉をつむぐ。こんな、それこそ馬鹿みたいなことを、キルアが口にするのはもちろん彼が精神的に参っているからで、ゴンはそれを知っている。普段なら絶対に言葉にしないこと。永遠とか、死とか、愛とか。
どうしようかな、と考える。キルアが欲しい答えは分かりきっているし、優しい答えを期待する会話の愚かさを、キルアは知っている筈だった。今だって。自分で自分の言葉に幻滅して、勝手にがんじがらめになっているのだ。

「キルア」

名前を呼ぶ。キルアはびくりと肩を動かした。冷たい空気のなか、ゆっくりと歩いてゴンはキルアの目の前に座る。彼はクッションを抱く力をますます強める。
雨が降っている。

「ねえ、いつまでなら信じられる?」

そう言うと、キルアはためらいがちにゴンに焦点を合わせた。薄いブルーの瞳。ゴンはその色を気に入っていた。ひたひたと雨が溜まっていくような。
いつまでって、とキルアが呟く。ゴンは言う。

「1年間なら信じられる?オレはきっと、ううん絶対、1年後もキルアのことが好きだよ。だから1年後にまた、1年間キルアを好きでいることを約束してあげる」
「そんなの、」
「だめ?1ヶ月ならいい?1週間?」
「ゴン、」
「じゃあ1日にしようか。オレは明日の朝になっても絶対にキルアのことが好きだから、また1日キルアを好きでいることを約束する。そしてまたあさって、1日ずっとキルアのことを好きでいることを約束してあげる」
「ゴン!」
「1秒でも、いいんだよ?」

キルアは白い顔を辛そうに歪めて、再びうつむいてしまった。ゴンは彼の右手に触れる。クッションを固くつかんでいたその指をほどいて、ゆっくり、ゆっくり撫でていく。

「キルア、好きだよ」

指先にキスを落とせば、ちいさく震える。ずっと一緒にいようね、と囁いた。はかない約束。
優しい言葉を期待され、優しい言葉を返して。馬鹿だなあ、と思う。キルアも、自分も。
それでも、言葉にすれば本当になる気がした。
永遠なんて信じない、そんな言葉より、ずっと。幸せな未来を信じたかった。

この雨が止んでもきっと、約束はまだ続いている。


13.約束をしよう、それはとてもはかないものかもしれないけど /配布元:微妙な19のお題