ねえいい天気だよ、と声がして光が目にくらむ。数秒ののちに瞬くと、開放された窓の向こうには真っ青な空が広がっていた。まだ覚醒しきっていない身体を起こして軽くストレッチをする。すっかり活動モードのゴンがキルアのベッドに飛び乗って、戯れるように腕をひく。

「ねえどこか出かけようよ」
「どこに」
「どこか。せっかくこんなにいい天気なんだから」

別にいい天気だから出かけなきゃいけないなんて決まりはないし、キルアはあまり太陽の光を浴びるのが得意ではなかった。それでも特に反対をしなかったのは、まだ眠い頭で理屈をこねるのが面倒くさかったのと、代わりにいれる用事も特になかったから。そして、ゴンには青空が似合うな、と不意に思ってしまったから。
お前が行き先決めろよ、と前屈しながらキルアが言うと、ゴンは一瞬目を見開いたあと、至極嬉しそうに頷いた。ここらへん何があるか調べてくる!と騒がしく部屋を出て行く。元気だなあ、とぼんやり思いながらキルアはもう一度窓を見た。飛びこんでくる青、青、青。



「あ、ほらキルア、アイス売ってる」
「オレソーダ味がいい」
「オレもー」
「おばちゃん、ソーダ味二つね」

結局行き先は決まらなくて、ぶらぶらと街を散策することになった。最初はいろいろと店を回っていたけれど、休日の昼間、人だらけの街路になんとなく窮屈になって公園に逃げこむ。
アイスを二つ受け取って日陰を探す。少し歩くとちょうどいい木の下が空いていたので座り込む。芝生の公園では小さな子供達がサッカーをしていて、遠目に眺めながらソーダ味をほおばる。その冷たさが嬉しくて、一気に食べきってしまう。
そこでようやく一息ついた。不意にあくびがでた。

「ねむい?」
「あー、うん」
「寝てもいいよ、オレ起きてるし」

なんなら膝枕しようか、というゴンの言葉は無視した。言葉に甘えて、ゴンが座る横であお向けになる。目を閉じる。途端にどっと眠気が増す。気を抜いちゃいけない、と頭の隅で警告が鳴るけれど、身体はうまくついていかない。ゴンの隣で過ごしていると、時々こんなことがあった。仕事じゃなくて、こういう風に他愛もなく過ごしているとき。自分でも意識しないほどに。
これが、安心する、ってことなのか。思考が落ちる直前、そんなことを考えた。




まぶたを開くと光が射しこんで、目を細める。何回か瞬きをするとゴンが気付いたようで、おはよう、と声をかけてきた。ゆっくりと頭を回転させる。そして気付く。

「……うそ」
「なに?」
「オレ、熟睡してた……?」
「うん、ぐっすりだった。オレが見ても分かった」

珍しいものが見れたなー、とゴンは嬉しそうに笑う。キルアはかなり大きな失態に顔をゆがめた。
ゴンと出会えて本当によかったと、思うけれど。時々、ほんの一瞬の隙に、それでいいのか、と囁く声がする。自分がどんどん弱くなっているような錯覚に襲われる。
独りで生きるべきなのだと。

「キルア?」

呼ぶ声に視線をあげると、不思議そうに見下ろすゴンの表情が見えた。さわさわと揺れる葉。そしてその向こうには、青。はてしない青。
息を吐き出す。

「……いい天気だな」
「今更なにいってんの」
「やっぱり青空が似合う」
「なんのことさ」

まだ寝ぼけてる?とたずねる声にゆるく首をふる。腕をのばす。頬に触れると、ゴンはおかしそうに笑って身をかがめる。

「変なキルア」

額にかるいキスが落とされる。
これでいい。弱くなったとしても構わない。それ以上に、ゴンの隣にいたい、と思う。終わることのない葛藤は、いつもこうやって結論づく。そしてまたいつか同じように。
もう一回寝てもいい?と尋ねると、どうぞ、と返された。手を握る。ゴンの体温は高く、触れると、そう、安心する。

今日の世界はやたらまぶしくて、その光源は太陽じゃなく、おそらくはゴンだった。
おやすみ、と声がする。閉じるまぶた。開くときにはいつも、きっと光の雨が降る。