教会の前を通った。がやがやと何だか賑やかしいので何だろうと立ち止まると、どうやらパーティをしているようだった。ちょうど復活祭のミサだったらしい。小さな子どもがきらびやかなイースター・エッグを持って楽しそうに笑っていた。
なんとなく嬉しくなってから、再び歩き出す。笑顔をみるのは好きだ。

「キルアはさー」
「ん?」
「神様っていると思う?」

特に深い意図があったわけではなかった。ただなんとなく、隣で歩く友人がこの質問にどう答えるのかが気になった。
キルアは、んー、と少し考えるように空を仰いだ。そして言った。

「いる、と思うやつにはいるんじゃねえ?」
「……へえ」

予想外の答えに間抜けな相槌しか打てなかった。なんだよ、とキルアは唇をとがらせる。思わずううん、と首を振る。

「全否定するかと思ってた」
「あっそ。ま、別に信じるのは自由だと思うぜ」

ゴンはまじまじと隣の友人の顔を見る。彼はその視線に居心地悪そうに顔をそむけた。細い首筋がみえる。
大きな拍手が後方から聞こえてきた。もう春だろうか。そういえばなんとなく今日は温かい。穏やかな日曜日。

「キルアはどうなの?」
「何が」
「キルアは、神様っていると思う?」
「……いないだろ」
「やっぱり」
「と、思ってた」
「え?」

素直に訊き返すと、キルアはちらりとゴンを見ておかしそうに笑った。
そのまま何も言わずに下り坂をとーん、と一気に降りていってしまう。あっけにとられていたゴンは急いで追いかける。
半歩後ろにつく。

「ねえキルア」
「んー?」
「思ってた、って」
「うん」
「今はいると思うの?」
「さあな」

キルアはただ笑うばかりで、きちんとゴンの質問に答えてくれない。ゴンは何度もキルアを呼ぶ。
道端の猫を追い越した。ジョギングする女性を追い越した。音楽を響かせて走るトラックを追い越した。
春風を追い越していく。

「ちょっとキルアってば」
「ゴン」
「なに?」
「……やっぱ何でもない!」
「えーちょっと何それ!」

ぐんぐんと、前へ、前へ、前へ。
続きが気にはなるけれど、少し前を走るキルアがとても楽しそうだったので、まあいいかとゴンは思った。笑顔を見るのは好きだ。それがキルアであればなおさら。
ふつふつと衝動がこみあげてくる。

「キルア!」

思いきり飛びつけば、うわ!とキルアが声をあげてらしくなくこけそうになって、それもおかしくて二人でどこまでも笑って。
今があればいい、と唐突に思う。神様なんていなくても、笑いあう今があればいい。



まるでかみさまみたいなひとでした/配布元:フィヨルド