ずっと一緒にいられないのはいつからか二人とも気付いてたことだったし、実際ずっと二人でいることにお互い限界を感じていたのは確かだった。だから先に別れ話を切り出したのはゴンだったけれど、ゴンが言わなければ一週間後くらいには多分キルアが切り出していた。ゴンの方が耐え性がなかっただけの話だ。きっと。

「これどーする」
「あーいいんじゃない、捨てて」
「こっちは?」
「捨てちまえ捨てちまえ」

話はあっけないほど簡単に進んで、ゴンが口火を切った一時間後には二人で引越しの準備を進めていた。ほとんど帰ることのなかったアパート。それでも何年も借りていればそれなりに物は増えていた。二人が共同で使っていたものはほぼ捨てられる運命になった。粗大ゴミ行きの電化製品の数々をもったいないと思いつつも、それでも引き取る気にはなれなくて、やっぱりそういうものなのかなあ、と変な感慨をゴンはもつ。

「このインナーは?ほとんどキルアのになってたけど。オレが買ったのに」
「だって着やすくてさ」
「これも捨てる?結構最近でも着てたよね、これ」
「まあなー。でもいいや、ちょっとのびてきたし」

服を整理して、行く先々で買ってきた変なみやげ物を整理して、ダンボールに詰めて、適当に掃除をして。
夕方頃にはほとんどアパートを引き払う準備はできていた。電化製品などもさっさとしかるべきところに処分した。すっかりがらんどうになった部屋で二人、床に座りこんで買ってきたパンを食べる。

「キルアはどうするの、この先」
「わかんね。でも気になってることはいくつかあるからさ、そこらへんを当たってみるつもり」
「ふうん」
「お前は?」
「そうだなーオレはもう少しいろんなところを旅したい」

ジンは数年前に探し当てた。それからは一度も会っていない。いざ悲願を達成してしまうと特にやりたいことも見つからなくて、キルアと二人、行き当たりばったりな旅をしていた。いくつか大きい仕事もした。お互い離れられなくて、ずるずるとこんなところまできた。


「オレさー」
「なんだよ」
「キルアのこと好きだよ」
「……そりゃどうも」
「キルアは?」
「真顔で訊くなよ」
「ねえ」
「……知ってんだろ、好きだよ、決まってんだろ」


「勝手に死なないでね」
「無理だろ仕事柄」
「でも、オレの知らないところで死なないで」
「今から別れようってやつが言う台詞じゃねえな」
「…あーでも、」
「なに」
「オレ、キルアが死ぬとき分かる気がする」
「オレが先に死ぬの前提かよ」
「違うよ、そういう意味じゃなくてさー」
「はいはい、分かってるよ」


「……オレは分かんないだろうな」
「何が」
「お前が死ぬとき」
「えー分かってよ」
「だって、お前死ぬとき、オレのことこれっぽっちも思い出さない気がするし」
「………」
「否定できないだろ」


「……でも、好きなんだよ」
「分かってるよ」


ホテルまで行くのも億劫で、フローリングに二人で横になる。昼間はまだ暑くても夜は少し冷えて、どちらからともなく身を寄せ合う。ゆるく手を握った。
今まで、自分が先に別れを切り出したのは、ひとえに自分に耐え性がなかったからだと思っていたけれど。
それはちょっと違ったのかもしれない、と、ゴンは思う。
オレのことこれっぽっちも思い出さない気がする、と、目を細めて笑うキルアの表情が、まぶたの裏に残る。



翌朝は快晴だった。

「じゃ、これで」
「どっかでまた会うかもね」
「できることなら会わないといいな」
「そうだね」

朝の光を銀髪が反射する。
今朝はそれがやけにまぶしくて、ゴンは目を細める。

「死ぬときは呼んでね」
「できたらな」
「……オレも、呼ぶから」
「期待しないで待っといてやるよ」

キルアは少し笑う。不意にたまらなくなって、ゴンはその腕を引き寄せてくちづけた。軽くあわせるだけのキス。

「……もし、最期、会えなかったら?」

ささやくと、答えは微笑んだくちびるとともに返ってきた。

「そうだな、じゃあ、

ではまた、来世で

ではまた、来世で/配布元:Shirley Heights