手を伸ばせば、視界には自分の乾いた手の甲と真っ白の天井が見えた。当たり前だ。部屋の中には真っ青な空は見えなくて、でもエイトは今、伸ばした手の向こうに広がる青を想像する。
「何やってんの」
隣から声がかかる。エイトは今ククールと一緒にベッドに寝転がっている。ぴたりと身体をくっつけて。触れた肩から伝わる体温が嬉しい。
「なんかね、無性に手を伸ばしてみたくなって」
「欲しいものがある?」
「ううん。ないよ。俺はククールと一緒にいれたらそれでいい」
そう答えると、ククールはふふっと嬉しそうに笑った。
腕を下ろして顔を横に向けると、目元を綻ばせたククールがいる。エイトはその額にキスをした。ちゅっと軽い音をたてて。そしてふたりで笑う。
ククールがエイトの頬に手を伸ばして、いとおしそうになでる。くちびるを近づける。軽くふれたそれはとてもやわらかくて、もっとふれたくてエイトは何回もククールにくちづける。
そのうちにククールの腕がエイトの背中に回って、抱きしめられる格好になる。
口づけはどんどん深くなっていって、とうとうククールの舌がエイトの口内にはいってくる。それに応えるように舌をからめて、ふたりの息はあがっていく。
もうとまらない、とエイトは頭の片隅で考える。ククールが欲しい。それしか考えられなくなる。

* * *

「時々さ」
「うん?」
熱がおちついて、ふたりは裸のまま天井を見上げている。エイトは言う。
「怖くなるんだよね。いつまでこの幸せが続くんだろうって」
「ええ?」
「幸せすぎて、こわくなる。というよりも、変に確信しちゃうんだ。きっと、お互いうまくいかなくなる瞬間が、いつかはくるんだろうな、って」
「……あれまあ」
「いいことがあれば、辛いことがあるって、知ってるから。経験上さ。いいことばっかじゃないんだろうなあ、って」
「俺たちはここに至るまで十分苦労したと思うんだけどなあ」
ていうか、すっごく久しぶりに1日ふたりでらぶらぶできる日に、そんなこと言わなくてもなあ、とククールがぼやく。
「うん、分かってる。ごめんね。――でもね、考えちゃうんだよね」
そう言うエイトに、ま、わからんでもないけどな、むしろよくわかる、と静かに言って、一瞬ののち、ククールはエイトを抱き寄せた。鼻をすりよせる。キスをする。
「でも俺は嬉しいよ。エイトと一緒にこうしていれて。本当に嬉しい」
「……うん。俺も、すっごくうれしい」
ククールが目を細めて、とても幸せそうにエイトを見つめる。
その表情が、とても好きだなあ、と思うのだ。とろけてしまいそうだ。すべてが。
「ずっと一緒にいようね」
「うん」
不安定な約束だけれど、きっと現実にしたかった。かがやかしい未来を。
いとしいはだかの体温を、ずっとずっと覚えていられるように、エイトはぎゅうっとククールを抱きしめた。涙が出そうだった。




ありしひのうた/110403